みなさんが日頃取り組まれているお仕事は
全て目的がはっきりしていますか。
また、その職種での能力を高めようとしたときに
どのような能力を高めればよいのかはっきりしていますか。
「常にはっきりしている!」
というかたも、いらっしゃるかもしれません。
ただ、それは、もはや一部の職種に限られているかもしれません。
「教員」という専門職については、どうでしょうか。
仕事の取り組み方も、必要な能力も、目指すところも
かなり曖昧な職種といえるのではないでしょうか。
そのような職種はどのような学びが必要なのでしょうか。
そのヒントとなりそうなもののうちの一つとして、
ドナルド・ショーンの「専門家の知恵」が参考になりそうです。
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医師や法律家の専門職の世界においては
「技術的合理性」という考え方の枠組みが標準的でした。
「技術的合理性」のモデルでは
知識が理論と実践をつなぐために
標準化されていることや厳密性が重要です。
しかし、近年の専門家は、
「技術的合理性」の枠組みを固守することも
できなくなってきました。
なぜなら、「技術的合理性」の得意分野は
体系化された知識を適用できるような、
問題の構造をある程度きれいに整理できるような
問題解決の場面だからです。
つまり、専門家の支援を求めている
現代人の問題は、泥沼のように内容が不確実で
見通しが困難なものなので、
「技術的合理性」の枠組みが適用できないことも多いのです。
このような問題の特徴は
その問題自身が何であるかということや
目的が曖昧な状態であるということです。
そのため、現代の専門家は
「行為の中の省察」を行うのだと
ショーンは指摘します。
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ショーンが明らかにした現代の専門家の知識に関する実態は
教育業界でも既に多くの論文や研修のデザインの
基礎的な考え方にも適用されていますが
「授業デザインの知」にも適用できると思います。
弊所代表・西之園は、時折
「学習指導案は後から書くものだ」
と言います。
会員のみなさまも幾度か聞かれたかもしれません。
学習指導案の書き方について指導される先生の中には
この発言の意味を、痛感されている先生も
いらっしゃるのではないでしょうか。
これは、「授業前には書かない」ということを
意味しているのではありません。
学習者の姿をイメージしながら設計するためには
シミュレートすることが欠かせませんので
授業前に書くことも重要です。
しかし、その段階で書かれたことは
仮説にすぎません。(でも、仮説は必要ですよね)
ときおり、校内研修にお声がけいただいたり
公開授業をみせていただく機会があり、
そのときに、書いていただく指導案の学習目標が
かなり曖昧であると感じることが多々ありますが、
これも、対象(学習者の実態)が複雑であるため
そもそも目的を明確に絞り込むことが困難です。
事後協議で教科を超えて多角的に検討し合うためには
目的に照らし合わせて協議することが重要ではありますが
ショーンの指摘を踏まえると、
これからの協議会では、
目的そのものを整理することを含める必要がありそうです。
ですから、協議会において
「授業が目指すところが不明瞭なので、議論できません」
というご意見があれば、
ぜひ、学習目標を検討することを目指して
すすめてみてはいかがでしょうか。
▼ 参考図書
「専門家の知恵」
ドナルド・ショーン
佐藤学,秋田喜代美 訳
ゆみる出版、2001年、東京